〈インタビュー〉特別審査員 山野江里依さん(絵本未来創造機構 理事)が語る絵本の可能性 〜生まれる前から介護が必要になるまで、すべての人に絵本の力を〜

特集

2026/04/14

 

第15回絵本出版賞の特別審査員にお迎えした山野 江里依(やまの えりい)さんは、絵本未来創造機構の理事であり、日本の教育現場に長年携わってきた方です。

「絵本で心を育て、未来を照らす」ことをミッションに、絵本読み聞かせの認定講師の育成、絵本講座、講演などさまざまな活動を行っています。

そんな山野さんに、これまでの経歴、さまざまな絵本の活動、第15回絵本出版賞の審査にあたる想いなどを聞きました。

カナダで出会った「自己肯定感を上げる教育」をきっかけに学習塾を立ち上げ

― 山野さんのこれまでの経歴について教えてください。


最初のキャリアは、CAとしてフライトをしておりました。その後、結婚を機に退職し、夫の仕事の都合でカナダのトロントに5年半ほど駐在しました。当時、私の子どもは0歳と2歳だったのですが、週に1度、親が幼稚園のボランティアに行くことになっていて、その幼稚園で、日本の教育との違いを知りました。

日本は、できないところを一生懸命伸ばそうとしたり、みんなで一緒に、という部分を大切にします。でも、その幼稚園では、みんながそれぞれ自分の思ってることをどんどん口にしてディベートをしていくという方針で、素晴らしいなと感じました。

子どもが小学校に上がる前に日本に帰国し、中学受験も視野に入れ、塾を探したのですが、やはり、できないところをどうするか、というところに焦点が当たっているところが多く、このまま既存の塾に入れてしまったら、子どもたちがカナダで育んだ自己肯定感がどんどん下がってしまうのではないかと感じました。

もっと子どもの得意なことを伸ばして、1つのことでも自分の力を最大限に発揮することができたら、それだけで素晴らしいのではないか。そう思い、当時、教育に関してはまったく素人だったのですが、学習塾を立ち上げました。

その塾では、右脳を活性化し知識を染み込むようにインプットするという右脳学習と、ティーチングではなく子どもの個性を伸ばすコーチングの手法を取り入れました。いつの間にか生徒がどんどん増えて、ひとりでは対応できない状況になりました。
 

学習塾の経営を経て絵本の活動をはじめた山野さん。なぜ絵本だったのでしょうか?

子育てを通して気づいた絵本の大切さ。右脳に働きかけ、人間力とEQを育む絵本

― 絵本の活動をはじめたきっかけは?


塾の経営を通して、右脳を通して無意識の部分に働きかけるとどれほど効果的かを知りました。そして、絵本には、さらに右脳にダイレクトに働きかける効果があると思いました。

人間の脳神経は6歳までに90%がつながると言われています。それまでに絵本を読んであげることで、語彙力だけではなく自己肯定感やイメージ力も高まり、「なんか知らないけどうまくいくような気がする」「ありのままの自分でいい」など、自然と思えるようになるはずです。

私自身、子育てを通して、ひとつ、十字架のように感じていることがあるんです。それは、私の子どもたちが幼い頃に、もっとアイデンティティやセルフイメージの形成に関わるハッピーストーリーやサクセスストーリーを、絵本を通してたくさんインプットしてあげればよかったということです。もしそうしていたら、子どもたちの人生はすごく変わっただろうなと思います。

絵本を読むことで、右脳が活性化してIQが上がります。でも何より大切なのは、人間力や心の知能指数を示すEQが育まれるということです。そんな絵本の大切さを伝えるために、2017年に「絵本メンタリング協会」を立ち上げ、絵本の読み聞かせ講座をはじめました。

絵本の力を知って欲しいと最初はひとりでしたが、後に、別々に活動していた仲宗根とパートナーシップを結びました。それでも活動を全国に広げるには2人では限界があると感じ、講座を開くことができる講師の養成をはじめました。おかげさまでだんだんと、行政を含めたくさんのオファーをいただくようになり、財団に切り替えて絵本未来創造機構と名づけたという経緯があります。

 

「EQ絵本講師」の育成講座にて

学校・介護施設・企業研修など、あらゆる世代とシーンに広がる絵本の可能性

― 絵本未来創造機構の活動を通して気づいたことや実感することはありますか?


最初は子どものためにはじめた活動でしたが、講座をしていると、大人の方も、絵本の内容に感動したり涙を流す方がいらっしゃるんですよね。小さい子どもから大人まで、絵本の力は本当にすごいのだな、人を変容させる力を持っているな、ということを感じます。

今はシニアの方向けに介護施設でも読み聞かせをさせていただいたり、中学や高校、企業研修、大学のキャリア研修、発達障害のある方たちに向けて絵本の活用を進めるなど、どんどん年齢層や範囲が広がっています。ミッションとしては、絵本の力を全ての人にお届けしたいなと思っています。

そうすることで、ひとりひとりが穏やかになり、ありのままの自分を認めていくことができる。その気持ちが平和であり、それがどんどん広がっていけば、世界の平和にもつながります。そんな想いを持って活動しております。

ハワイで行った講演会



世界共通の愛を描いたバイリンガル絵本の出版と、絵本作家としての想い

ー 2024年には絵本『あなたがいるだけで~おばあちゃんからのてがみ』を出版されましたが、出版の経緯や反響などは?

 
私の長女が、なかなか子どもを授かることができなかったのですが、ようやく授かることができたときに、私はその子に、メッセージを残したいと思ったんです。どんな形で生まれてきても、あなたが生まれてきてくれるだけで、もうこんなに、パパとママ、おじいちゃんとおばあちゃん、みんなが幸せになったんだよ。あなたという存在は、もうそれだけで素晴らしいんだよ。そんなことを伝えたいと思ったんです。いつか大きくなったときに、悩んだりすることがあるかもしれないけれど、その時に読んでもらえるように、絵本という形で残したいと思いました。

英語付きのバイリンガル絵本なのですが、英語を付けたのは、この生まれてくる子どもへの感情は、世界共通の想い、世界共通の愛だと思ったからです。そうしましたら、ちょっとご縁があって、イギリス王室に献上させていただいたり、世界遺産に奉納させていただいたり、という機会にも恵まれました。韓国でも出版され、海外にも広がっているのは本当にありがたいことです。

絵本って、どんな読み方をしても、どんな捉え方をしても、どんな気づきがあっても、それぞれがその方たちにとっての正解なので、それも素晴らしいことだなと思います。

 

山野さんが2024年に出版した絵本『あなたがいるだけで~おばあちゃんからのてがみ』(理論社)

出版記念講演会で絵本に込めた想いを語る山野さん



技術ではなく想いがすべて。絵本の力で、老若男女みんなの人生を豊かに

ー 最後に、絵本出版賞の応募を検討している人へのメッセージをお願いします。

 
前回、第14回で初めて審査に参加させていただきました。たくさんの絵本に触れることができて幸せのひと時でしたが、1冊しか選べないのは本当に難しかったです。

やっぱり、絵本の根底に流れているのは愛、そして想いだと思うんですよね。ご自身の想いをどこまで描けるか。それも、長いストーリーではなく絵本として。言葉をそぎ落としながら、自分の想いをどうやって絵本の中に詰め込むのかが鍵だと思います。それは技術ではなくて、やっぱり想いがすべてだと思うんです。

まず応募の段階では、その想いを突き詰めて、想いを中心に描いてほしいです。実際に絵本として出版するときには、編集の方もいらっしゃるので、「もっとここをそぎ落としていこう」とか「ここはこういう風にしたほうが伝わるよね」ということは相談できると思いますので。

あと、先ほども少しお伝えしましたが、絵本は小さな子どものためのものだけではありません。私は、大人が本屋さんの児童書コーナーで絵本を広げているのが当たり前の世の中になったらいいなと思って活動しています。

そのためにも、もっと大人にも読んでほしい絵本が世に出てくださったらと願っています。前回の審査で選ばせていただいた作品「こころつぼみ」もそうでした。この賞を通して、そんな絵本がたくさん生まれているのが素晴らしいと思いますし、審査に参加させていただいて感謝しています。

お母さんのお腹にいるときから介護が必要になる年齢まで、老若男女みんなが絵本から素敵な力をもらえば、人生がすごく豊かになるんですよね。そんな絵本の魅力を、これからもずっと伝えていきたいです。


 
〈 山野江里依さん プロフィール 〉

絵本未来創造機構 理事/EQ絵本講師®育成者/教育者/絵本作家。元CAとしての国際的な視野と、28年間にわたる学習塾経営の経験を通して、子どもたちの心の成長を支えてきた教育者。現場で絵本の持つ力に確信を得て、絵本未来創造機構を設立。これまでに1200人を超えるEQ絵本講師®を育成し、保育士・幼稚園教諭の研修やPTA講演なども多数実施。2024年には、自身初のバイリンガル絵本『あなたがいるだけで~おばあちゃんからのてがみ』を出版。「あなたが存在するだけで、誰かを幸せにしている」というメッセージが、多くの読者の心に温かく届いている。「絵本で心を育て、未来を照らす」ことをミッションに、絵本の可能性を広げる活動を続けている。
▶︎ 絵本未来創造機構ウェブサイト