【第11回絵本出版賞】審査員4名の総評コメント

応募について

2023/08/04

先日、第11回絵本出版賞の結果を公表しました。

追って、最終審査に参加した審査員4名から審査の感想と応募者へのメッセージが届いたので、こちらで紹介します。

これで終わりではなく、これからがはじまりです。

次回の応募のヒントも詰まっているので、今後の表現活動の参考にしていただけたら幸いです。

 

多様な生き方をどう受け止め、なにを世に成していくか。

スプリングインク株式会社 代表取締役 城村典子氏

今回、審査をしていて印象的だったのは、時代を反映する作品が多かったことです。

たとえば、高齢者と孫の関係性だったり、発達障がいなど個性による生きづらさ、コミュニケーションの断絶、というようなテーマの作品が、王道の物語のなかに混ざって存在しているのが見受けられました。個人的な印象ですが、あっけらかんと明るく生きる、というよりも、真剣に生きる、という時代なのかなと感じました。また少し時代が動いてるなと。

今回大賞に選ばれたのは、空、ときどき 海さんの「明るい祟り “you,わたしの人生やってみなよ”」という作品です。発達障がいを持つ作者自身が、自分の人生とそこから見える世界をフラットに描いています。散らかしても片づけられないなど多くの人が共感できる部分もあり、発達障がいは特別なものではなくみんなそれぞれの個性があるのかなと思わされました。

この作品が大賞に選ばれたのは、象徴的なことだと思います。審査員全員で、この賞で何を成していくのか、社会にどんなメッセージを届けていくのか、というのを改めて確かめ合うきかっけになりました。今は生き方がどんどん多様になっていますが、それをひとりひとりがどう受け止めて生きていくのか、が問われているのではないでしょうか。

審査を通して、私自身が考えさせられ、知見を積ませていただいている実感があります。いつもすべての作品に尊厳を持って審査に臨ませていただいています。改めて、本当にありがとうございます。

審査では、作品のクオリティだけではなく、情熱、発想、可能性などあらゆる角度から深掘りしています。だから、自分のレベルを気にしたり恥ずかしがったりなどする必要はありません。応募をご自身のレベルアップに利用していただくこともできます。ぜひ、「自分なんて…」と思わずに、何度でも応募してほしいです。

 

空気を読まず、やりたいことを好きにやってOKです。

提携出版社みらいパブリッシング 代表取締役 松崎義行氏

本賞は「才能を発掘する」というスローガンを掲げていますが、今回も審査を通してさまざまな才能と出会えたことが幸せでした。絵本が人類を豊かにしてくれる。空想力や想像力でいきいきした感動を与えてくれる。そんなことを改めて実感しました。

わたしたちの生きる現実には、絶望してしまうようなことも起こりますが、絵本は、そうした現実と空想や想像の世界をつなげることができます。

とくに、笑う力や怒る力を引き出してくれる作品はものすごく強いなと感じました。絵本部門の最優秀賞に選ばれたたなかべぶびさんの「ダジャレしりとり」は、まさにそういう作品です。審査員がみんな声を上げて笑いながら審査していました。

また、絵本には、絵本ならではの「批評性」があります。大人向け絵本部門で最優秀賞に選ばれた六畳たたみさんの「ノンサイエンスフィクション」は、それを体現した作品です。

ふつう、サイエンスフィクション(SF)はフィクションですが、そこに「ノン」がついている。未来の絵空事のようなことが実際に起こっているんだという皮肉が込められているように感じます。それを説教くさくなく、説明的ではなく伝えることができるのが、絵本の批評性の魅力だと思います。

逆に、空気を読んで描いているのかな、と感じられる作品は、僕は懐疑的に見てしまいます。たとえば、食べ物の絵本だったら、「残さず食べよう!」という内容が多いですが、そこに「嫌いなものは食べなくてもいいじゃん」というメッセージがあってもいいと思うのです。時代とともにわたしたちをとりまく食の環境もどんどん変わってきているからです。

この賞は、「こんなものでも応募できるの?」という作品も受け入れるコンテストです。やりたいことを好きにやってください。それを受け止める準備はできています。出版に特化した賞なので、世の中に出たらどうなるかを予測しながら審査します。つまり、作品のクオリティももちろん大事ですが、評価されるのはそこだけではないということです。

未完成でもいいので、ここまでやったぞ、というのを見せてください。感動の芯のようなものをあまり削りすぎず、残したままで応募してほしいです。次回も楽しみにしています。

 

作品の持つ“運命”に思いを馳せながら。

みらいパブリッシング東京本社 編集長 谷郁雄氏

全体的にレベルの高い作品が多かったです。絵と文が総合的に完成度の高いもの、絵またはアイデアが突出しているなど…。可能性を感じられる作品ばかりだったので、審査員としてとてもやりがいがありました。

作品には、時代を越えて残っていくものと、時代とともに輝いて消えていくものがあります。僕は、両方あっていいと思っています。作品には、それぞれの作品が持っている運命というものがあり、世に出した後に、作者本人にも編集者である僕にも分からない動き方をするものもあります。分からないなりに、そんな作品の運命に思いを馳せながら、いつも審査しています。

今回は、発達障がいや、人とちょっと違う女の子など、個性を含めて人生を前向きに生きる方法を提示してくれる作品が多かった印象です。これから、これらの作品がどんな運命を歩んでいくのか、楽しみです。

また、次回どんな作品を応募してほしいかは、こちらから伝えることではないと思っています。「こういうものを期待する」と言ってその通りに出してくるのではだめだと思うし、むしろ予想外で受け止めきれないものがどんどん出てきてくれないとおもしろくないです。しいていえば、審査員が審査するのが楽しくなるような作品がいいですね。次回も楽しみにしています。

 

テクニックや完成度より、キラッと光る才能の片鱗を見つけだします。

みらいパブリッシング大阪本社 副編集長 東野敦子氏

審査を終えて、前回よりさらにレベルアップしてきてるのを感じました。それぞれの作者がちゃんとつくりたいものを練りこんでつくっている、読み応えがある作品が多かったです。全体的にレベルが底上げされ、いいなと思う作品ばかりでした。そのなかに飛び抜けていい作品もたくさんありました。

印象に残っている作品は、絵本のストーリー部門で最優秀賞に選ばれた福住麻友さんの「ともだちとどけ」です。あなたとわたしは友達です、という証明書を役所に届けると友情を保証してもらえるという、ほほえましくもあるけれど、すごくシュールで提起のつまった物語です。

友達って、届け出ることで成立するものなの? という問いかけもありますし、現実世界でも役所で保証してもらっているものは色々ありますが、果たしてそれらは本当に確かなものなの? という逆の問いかけもしています。子ども向けの絵本ですが、大人も当たり前に思っているしくみについて考えさせられるきっかけになる物語だと思いました。

ほかにも、うーんと考えさせられる、優れた作品が多かったです。絵本のストーリー部門のレベルもどんどん上がってきていると感じます。

前回の総評コメントで、「自分の楽しいと思うことや世界観をとことん追求して、突き抜けてほしいです」という話をしました。今回の審査を通して、突き抜けてきてくれているな、と感じました。メッセージが伝わって本当にうれしいです。

次のステップは、「自分はこれを伝えたい」という部分を、もっと突き抜けてみることです。まだ中途半端でも大丈夫です。テクニックや完成度より、なにかキラッと光るもの。才能の片鱗のようなものを、わたしたちは見つけだします。

見つけだすので、信じて出してみてください。


以上になります。

受賞した方も、惜しくも受賞を逃した方も、これで終わりではなく、これをはじまりとして、表現活動を続けてほしいと思います。

第11回絵本出版賞の結果はこちらからご覧ください。

また、現在、第12回絵本出版賞の作品を募集しています。

次なる挑戦を、ぜひお待ちしています!