出版ビフォーアフター! 出版までに劇的な変化を遂げた『パンダフルがくえん』のヒミツ

絵本コラム

2024/03/05

 

目を引くタイトル、つい感情移入してしまうキャラクター、息をのむ展開…

みなさんがふだん本屋さんで見かける絵本は、どれも完成度の高い素晴らしい作品ばかりですよね。

これらの絵本は、最初からこうだったわけではなく、“編集”という過程を経て世に送り出されています。

最初から完璧で、変更がひとつもなく出版に至ったという絵本はほとんどありません。

 

では、絵本の編集とはどのようなもので、どんなやりとりやプロセスがあるのでしょうか?

今回、提携出版社からお借りした貴重な資料をもとに、編集によって大きな変化を遂げた絵本を紹介したいと思います。

 

紹介する絵本は『パンダフルがくえん』

絵本作家きのしたみわさんが、第7回絵本出版賞への応募をきっかけにモモンガプレス(みらいパブリッシング)から出版した絵本です。

主人公の“しろくまポー”が、パンダしか入れない学校「パンダフルがくえん」に変装して入学する、という奇想天外な物語のなかに「自分らしく生きる」という普遍的なメッセージがつまった、何度も読みたくなる作品です。

 

絵本『パンダフルがくえん』表紙

 

この絵本が、編集の過程でどのように変わったかをお見せしていきます!

 

 

ヒミツ① タイトルと主人公の名前が大変身

 

当初、作品のタイトルは『しろくまそうた がっこうへいく』、主人公の名前は“しろくまそうた”でした。

編集の過程でキャラクターや物語をブラッシュアップしたあと、主人公の名前は“しろくまポー”、学校の名前は“パンダフルがくえん”に変更になり、タイトルは『パンダフルがくえん』に決定しました。

 

〈出版前のラフ〉

タイトル:『しろくまそうた がっこうへいく』 主人公の名前:しろくまそうた

 

〈出版後〉

タイトル:『パンダフルがくえん』 主人公の名前:しろくまポー
名前だけではなく、ビジュアルも含めて全体的にすごくユニークになりました

 

 

 

ヒミツ② カギをにぎるのは校長先生

 

『パンダフルがくえん』の物語のテーマは「自分らしく生きること」。

作者のきのしたみわさんは、ご自身の子育てのなかで息子さんを「こうしなければ…」「こうじゃなければ…」と既存の枠にはめてしまったのではないか、という反省から、このテーマを物語に込めて作品をつくりあげたそうです。

そんな経緯から、最初の段階でとくに丁寧に描かれていたのは、主人公のしろくまポーとポーのお母さんの関係でした。

 

〈出版前のラフ〉

 

ただ、編集者の目線で見ると、この作品でいちばん読者を楽しませることができる大事なシーンは、「みんなパンダじゃなかった」という最後のオチ。

そこを最大限に楽しんでもらえるように、きのしたさんと編集者は、最初は本物のパンダという設定だった校長先生も実はパンダじゃなかった、というオチに変更したそうです。

 

〈出版後のオチ〉(※ これからお子さんに読み聞かせる予定の方は、見せないでください…!)

 

 

ヒミツ③ パンダたちの“目”にご注目!

 

オチの変更によって校長先生の個性がさらに際立ったことをきっかけに、ほかのキャラクターたち全員の表情もさらにもっと良くしたいと、それぞれの描き方を改良しました。

 

〈出版前のラフ〉

 

〈出版後〉

 

どうですか? ひとりひとりの個性が一目でわかるようになりましたよね。

それぞれの性格もこまかく想像できそうなほどのイラストの表現力は、プロの絵本作家のなせる業だと感じます。

とくに目の描き方を工夫したそうですよ!

 

〈キャラクターのラフ 原画〉

 

 

ヒミツ④ 一人称か三人称か

 

通常、物語には、主人公が自分の目線で語る「一人称」と、別のだれかの視点から語る「三人称」のふたつがあります。

どちらにするかで、物語の雰囲気や展開の仕方がまったく変わってきます。

『パンダフルがくえん』も、一人称と三人称どちらが合っているのか、実際に両方のバージョンを書いてみて、読み比べ、結果的に三人称にすることが決まりました。

 

〈一人称・三人称バージョンの文章ラフ〉

 

〈出版後〉

 

 

ヒミツ⑤ 扉に隠された遊び心

 

 

これは、絵本の表紙をめくって最初にあらわれる1ページ目です。

もともときのしたさんが表紙を想定して描いたイラスト案を、編集者が「扉のページに扉の絵を入れたらかわいいかもしれない!」と思い、ここにこの絵を入れることを提案したそうです。

(絵本のいちばん最初のページを出版用語で「扉」と言います)

パンダフルがくえんの入口から覗いているポーの姿から、これから何かがはじまる予感をさせる、まさに扉のページにぴったりなシーンですよね。

 

 

以上、『パンダフルがくえん』が出版までに劇的な変化を遂げたポイントを5つ紹介しました!

 

すべての絵本には、編集過程でさまざまな道のりがあります。

編集は、作家を支え、作品を高めるためにあるものです。

作家になるとき、少しでも内容を知っていると安心できると思うので、この記事を将来に役立ててもらえたらうれしいです!

 

過去にも別の絵本3冊の出版ビフォーアフターを紹介しています。

よろしければこちらの記事も読んでみてください。

 


 
〈 きのしたみわさん プロフィール 〉

1969年東京生まれ。学習院女子短期大学人文学科卒業。大学卒業後、銀行員をはじめ様々な職業を経験し、合間に心理学を学ぶ。生花店勤務時代は、フラワーアレンジメント講師の傍ら、花育をとおして子どもたちと関わる。孫たちに伝えたいことをテーマに絵本制作をスタートさせた。趣味は、御神輿を担ぐこと。X / Instagram / note

 

〈 絵本について 〉

タイトル:パンダフルがくえん
作者:きのした みわ
価格:1540円(税込)
判型:B5判変形 32ページ 上製 オールカラー
発売日:2022年12月22日
出版社:モモンガプレス(みらいパブリッシング)
ISBN:978-4-434-31409-4
購入:書店 / Amazon / Yahoo!ショップ