絵本づくりは旅に似ている。絵本作家おぐけいこさんの話

創作のヒント

2023/11/05

大切な人の死。思い出が糧になること。命の循環……。

親子で読みたいテーマがつまった絵本『木のおじいちゃん』が2023年7月26日にポエムピースから刊行されました。

発売当初から「慰められた」「励まされた」「孫たちと一緒に楽しみました」など多くの反響が届いているこの絵本。

全国学校図書館協議会の選定図書にも選ばれ、これからさらに多くの子どもたちの元に届いていくと思います。

今回は、この絵本の作者、おぐけいこさんの話を紹介します。

 

 

初めまして。

わたしは、1年前の第9回絵本出版賞の「大人向け絵本部門」で優秀賞をいただいた、『木のおじいちゃん』の著者のおぐけいこと申します。

2023年7月26日にポエムピースから出版させていただきました。

まだ出版してほやほやの者なので、みなさまと近い立場から、3点ほどお話させていただきます。

 

迷ったときに立ち返るのは「何を伝えたいのか」

まず第一に、本づくりの経験を通して感じたことや思ったことについてです。

この絵本で何を伝えたいのか、よく整理することが大切だと改めて感じました。

皆さんも制作しながら体験されていることだと思いますが、絵本はたくさんの絵と文によって構成されていますよね。

1枚だけ見ても楽しめて、全体としても調和してメッセージを伝えられるものになっているか。

制作過程で迷子になりそうな瞬間があったのですが、そのとき立ち返るのは、何を伝えたいのかということです。

読んでくださる人にとって良い時間になるために、自分が投げかけたボールがどのように読者に届くのかを考える視点をいただきました。

 

魅力的なサブストリートのある絵本づくり

わたしの絵本『木のおじいちゃん』は、死を扱うという深いテーマを持ちながらも、子どもたちにも楽しく読んでもらうために工夫しました。

わたしは絵本づくりは旅をすることに似ていると思うのですが、何を伝えたいのかが混乱すると、あれもこれもになってしまい、迷子になってしまうと感じました。

かといって、メインストリートだけをガシガシと効率的に歩くだけの旅も味気なくて、魅力的なサブストリートも必要です。

足したり引いたりしながら練っていきました。

 

 

編集者の存在

第二に、出版社で編集者の方と一緒に作品づくりをして良かったことです。

コラボレーションによる作品の変化として、編集者の方の存在はとてもありがたいものでした。

編集者というバランスのとれた的確な視点が加わってくださることによって、荒削りの作品が精製されて練られていくことを感じました。

編集者の方、また、ときには社長さんも関わってくださり、絵と文について率直なご意見をいただいたり、ご提案をいただきました。

また、デザイナーの方には、画面を素敵に見えるように尽力いただきました。

自分だけだと、目が慣れてしまっていたり、つくったものへの思い入れが強すぎて修正するのが難しいことがあります。

変な方向に暴走してしまうこともありますが、編集者さんの冷静で的確な視点に助けられました。

 

著者がカフェのオーナーだとしたら、編集者はコンサルタント

例えるならば、わたしが「カフェづくりをする夢を持つ人」で、編集者さんは「コンサルタント」のような関係です。

例えば、わたしがカフェの店名をすごく凝って、店の入口に店名の由来をくどくどと説明したものを置いたとします。

それに対してコンサルタントが、この説明の仕方は粋ではないのではないか。説明ではなくて自然に感じてもらえる方法はないですか? と問いかけてくださるような感じです。

言葉のチョイスについても、自分の引き出しだけではワンパターンだったりこだわりが強すぎる言葉になってしまうこともあります。

でも編集者という第三者の方と相談することによって、表現がいきいきすることを感じました。

『木のおじいちゃん』の初めのほうの「ぼくにはだいすきなひとがいる」という表現は、編集者さんが提案してくださった言葉です。

また、物語の最後のほうの「まちこがれていたはるがきた」という表現は、社長さんが提案してくださった言葉です。

より自然に、また、より魅力的な表現になりました。

 

 

出版をきっかけに増えていく出会い

第三に、作品を世に出版してよかったことです。

世界が広がったということを感じてます。

去年、わたしが受賞の知らせと出版のお誘いを受けたときは、コロナ禍の影響で、自分の周りの人だけとしか接触しない狭い世界で生きていました。

出版に対しては、憧れと不安の両方を感じていて、しばらくは出版に踏み切るだけの勇気を持てませんでした。

でも勇気を出して出版したことで、絵本作家としてデビューさせていただき、出会いが増えました。

本屋さんにご挨拶に伺い作品を知っていただいたり、絵本カフェで読み聞かせのイベントに参加するなども計画中です。

 

絵本に込めた希望が、読者に届くとき

また出版したことで、趣味で本を制作していたときよりも、作品を読みたいと言ってくださる方が段違いに増えました。

『木のおじいちゃん』は、人がいつか向き合う大切な人の死を扱った絵本なのですが、大切な人と過ごした何気ない日常や楽しい思い出が糧になり、悲しみさえも乗り越えられる、という希望を込めました。

SNSなどで、慰められた、励まされた、感動した、孫たちと一緒に「ヨッシャー」と掛け声を言って楽しみました、など生の声をいただき、とても嬉しく、反響の手応えを感じています。

皆さんも、絵本づくりがさらに実りあるものになるために、機会があれば、ぜひ出版活動にもチャレンジしていただきたいです。

以上です。
どうもありがとうございました。

 

 


 

〈 おぐけいこ プロフィール 〉

絵本作家。東京生まれ、杉並区在住。武蔵野美術大学卒業後、ステーショナリーデザインの仕事に就く。絵の創作を続け、個展やグループ展を開催する。現在、一男一女の子育て、日本語教師の仕事からも気づきを得ながら、「豊かないのち」をテーマに絵本づくりに取り組んでいる。『木のおじいちゃん』で第9回絵本出版賞大人部門優秀賞を受賞。

〈 絵本について 〉

タイトル:木のおじいちゃん
著者:おぐけいこ
価格:1540円(税込)
判型:B5判 32ページ 上製 オールカラー
発売日:2023年7月26日
ISBN:978-4-908827-81-5
購入:書店 / Amazon / Yahoo!ショップ