〈インタビュー〉絵本はあくまで手段のひとつ。イラスト・デザイン・音楽を横断しながら夢を叶え続ける祐彩(ゆうせい)さんの話

受賞者インタビュー

2024/03/19

 

何のために絵本を描いているの? どうして絵本作家になりたいの?

そう聞かれたら、あなたはどう答えますか?

「世界中の人の心にあかりを灯すため」

そうまっすぐ答えたのは祐彩(ゆうせい)さん。

デザイン会社を経営しながら、絵本の創作、オリジナルブランドの展開、音楽の制作、ワークショップやセミナーの開催などさまざまな表現を横断的に手掛ける、ほかのだれにも例えられないクリエイターです。

「絵本を描くために描くのではなく、叶えたいことの手段として絵本を選ぶこともある」という創作の姿勢をとる祐彩さん。

息子さんとの実際のやりとりから生まれた絵本『かいとう あっというま』『コロネのおしりはどっち?』(旧作家名「塚本ユージ」で出版)は、中国・韓国での出版やシリーズ2作目の展開など話題を広げています。

さまざまなメディアがあるなかで「絵本に可能性を感じている」と言う祐彩さんに、絵本の創作、創作を通して叶えたい夢について、話を伺いました。

 

祐彩(ゆうせい)さん / 絵本『コロネのおしりはどっち?』入稿データ

 

息子と過ごすなかで自然と生まれた絵本のテーマ

 

― 絵本、デザイン、イラスト、イベント開催などさまざまな活動をされている祐彩さんですが、最近はどのように過ごしていますか?

今は、絵本を創作したり、デザインをしたり、絵を描いたり、子どもたちに向けたライブやワークショップをやったりなどして過ごしています。

絵本は、新作のほかに、1年前に出版した『コロネのおしりはどっち?』の続きのお話も、出版社とやりとりしながらつくっているところです。そのほか、絵本をアニメーションにしてオリジナルの主題歌もつくって「ライブ絵本」というかたちで小学校で子どもたちに上演するという活動も10年ほど前からやっていたりします。

そんな感じで、日々創作するものはたくさんあって、頭の中はあっちもこっちも描かなきゃ、考えなきゃ! という感じなのですが、わりとゆったり、マイペースには過ごせていると思います。

 

― さまざまな表現方法を持っている祐彩さんですが、そのなかで、絵本を描きはじめたきっかけは?

初めてつくった絵本は『かいとう あっというま』というお話だったのですが、それが「Be絵本大賞」の大賞をいただき、出版されました。

この物語が生まれたときは、長男が2歳で、「もっと子どもと一緒に過ごしたい」という理由で会社を辞めて家で仕事をするようになった時期だったんです。毎日子どもと過ごすのがとても楽しくて、楽しい時間はあっというまに過ぎてしまうな、なんでかな、と思うようになって、「あ、もしかしたら楽しい時間だけを盗む泥棒がいるのかもしれない」と考えたんです。

その発想を、ちょっと物語にして子どもにも読ませてみようかなと、絵本をつくりました。せっかくなら色をつけてコンテストに送ってみようかな。そんな流れで出版までさせてもらったので、絵本作家になりたいから絵本を描いたというより、自分の中のテーマやメッセージを、それがいちばん伝わりやすそうな絵本という手段を選んで表現した、という感覚です。

 

Be絵本大賞を受賞し出版された絵本『かいとう あっというま』

 

自分って何だろう。20代の葛藤をコロネに重ね合わせて

 

― 初めて描いた絵本で大賞というのはすごいですね。もともと絵を描いたり物語を考えたりするのは得意だったのですか?

絵を描くのは小さい頃から好きで、芸術大学に進みデザインの仕事をしていたので、絵は問題ありませんでした。物語を考えるのはそれまで経験がありませんでしたが、僕は20代前半までミュージシャンを目指していて、自分で作詞作曲もしていたので、詞を書くことと通じるものがあるかもしれません。

 

― 『コロネのおしりはどっち?』の発想もすごいですよね。言われてみると、たしかにどっちがおしりなのだろう? と思ってしまいます。この発想はどこから生まれたのでしょうか?

子どもと一緒にパンを食べていたときに、コロネをかじる姿を見て、「あ、そっちから食べるんだ。僕は逆だな~」と思ったんです。そして「あ~、そっちから食べないで~」とコロネになりきって声を出してふざけたんです。こんなふうにアテレコする遊びはよくやっているのですが、そのときは、「人によってどちら側から食べるか違うのは面白いな」とか「コロネ自身ももしかしたらこっちが頭でこっちがお尻、と思っているのかもしれない」とか色々想像が広がって、お話にしたら面白いかもしれないと思ったんです。

もうひとつは、自分自身、ミュージシャンを目指していた20代の頃は、自分らしさについてずっと葛藤や迷いがあったんです。その体験をコロネに重ね合わせて、「本当の自分って何?」というのを考える物語にしたいと思いました。そうすることで、子どもだけではなく大人にとっても気づきのあるお話になると思ったんです。

 

絵本『コロネのおしりはどっち?』より

 

― 登場するコロネやほかのスイーツたちも、いきいきとかわいらしく描かれているのが印象的です。祐彩さんのご実家がパン屋さんだったという生い立ちも、今回の作品に関係があったりするのでしょうか?

ずっとパンに囲まれて育ってきたので、関係なくはないと思います。今も週に1度は必ず子どもたちとパンを食べるようにしていて、そのなかで先ほどお話ししたコロネのやりとりも生まれたので。パン屋さんで生まれていなかったら、このお話は思いつかなかったかもしれないですね。

 

妥協せず「本物」を届けたい

 

― そんなご自身の経験を重ね合わせた作品を絵本出版賞に応募しようと思った経緯は?

すでに出版している人は応募できないという条件のコンテストが多いなかで、絵本出版賞は過去に出版したことがある僕のような人でも大丈夫だったので応募しました。

 

― その後、絵本部門の最優秀賞を受賞し、本を出すことになります。出版まではどのような道のりでしたか?

最初は、応募した作品をそのまま出版に向けて整えていくという方向だったのですが、僕のなかで納得いかない部分があって、全部描き直したんです。別にこのページは描き直す必要がない、というページも含めてすべてです。

というのも、子どもたちにも本物を届けたい、という想いがあって。相手は子どもだからここまででいいだろう、という妥協は絶対にしたくないんです。どんなときでも、ひとつひとつ丁寧に描きたいと思っています。

 

絵本『コロネのおしりはどっち?』より

 

― 描き直しの際に印象的だったことはありますか?

1ヶ月半ほどで全ページを描き直したのですが、その時期は“毎日コロネ”でしたね。物語の構成はもう決まっていたので、あとは、コロネにどう魂を入れるか、どうしたらもっと楽しくできるか、というのを意識して描きました。そのなかで、コロネが一緒に歌を歌う相手が、マキガイくんからモンブランくんになったり、コロネにアドバイスをしてくれる相手がタイヤキくんからおだんごになったりと、登場するキャラクターに変更がありました。

 

― 完成した絵本を見て、どう感じましたか?

パステルで描いた絵本を出版するのは初めてだったので、最終的に印刷したときどんな色味になるのかがちょっと気になっていたのですが、思ったよりすごく綺麗に色が出て嬉しかったです。

 

絵本『コロネのおしりはどっち?』より

 

コロネの旅はまだまだつづく

 

― 絵本の反響はどうですか?

『かいとう あっというま』に比べると、『コロネのおしりはどっち?』はメッセージ性よりも読んでいるときの楽しさを優先したため、楽しんで読んでくださっている方が多い印象です。その上で、お母さんお父さんたちは、自分らしさについて込めたメッセージにも気づいてくださったりして、思ったとおりに伝わっているな、と嬉しかったです。

 

― 祐彩さんはイベントなどで読者の感想を直接受け取る機会も多そうですね。

はい、この1年で絵本に関連したイベントもいくつか行いました。行政からの依頼でショッピングモールの広場でイベントをしたり、児童養護施設でピアノを弾きながら読み聞かせをしたり。あと、物語にちなんで「なりたい自分ってどんな自分?」というのを子どもたちに描いてもらって、その絵の展覧会を開いたりしました。そんなふうに、絵本を通して子どもたちにとってのいい経験をつくることができたような気がします。

 

― 絵本自体も、全国学校図書館協議会の選定図書になったり韓国でも出版されたりと、1年かけて広がり続けているように感じます。

そうですね。今、僕がいないところでもだれかが読んでるかもしれない、と思うと、やっぱりメディアとしての絵本の可能性を感じます。イベントでは、その場にいる方たちとしか出会うことができないので。

ただ、『コロネのおしりはどっち?』に関しては、まだまだ広がっていないと感じます。広がっている絵本作家の人たちは本当にすごいな、と思います。だからこそ、絵本に関連したイベントなど、自分でできることはどんどんやっていきたいです。そして、もっと作品をつくっていきたいです。

 

施設でのイベントの様子 / 韓国語版と日本語版の『コロネのおしりはどっち?』

 

― 現在、『コロネのおしりはどっち?』のシリーズ2作目も制作中だと聞きました。

はい、今、編集者の方とやりとりしながらお話を決めているところです。2作目の主人公もコロネです。2作目は、すでに1作目があるからこそ遊べる部分があると思うので、もっと面白くしたいと思っています。

前回はすでにお話が決まっていたので、お話について編集者の方と話すことは少なかったのですが、今回は違います。自分ではいいと思ってるのに…という部分に意見をいただいたりすると、自分だけでは見えない世界が見えて、新しい見せ方やお話を思いついたりするので、やっぱり編集の方がいると、もっと面白くするにはどうすればいいんだろう? というコミュニケーションが取れていいな、と思います。

 

世界中の人の心にあかりを灯す

 

― 今後の目標や将来の夢はありますか?

僕は、絵本だけではなく、アニメーション、ライブ絵本、イラスト、オリジナルブランドなどさまざまな表現をしていますが、それらはすべて、ひとつのテーマに向かっています。「世界中の人の心にあかりを灯す」というのが僕のテーマで、僕はただ、そこを見ているだけなんですね。さまざまな表現を通して、たくさんの人が自分らしく生きられるようになったり、大変なときに希望を見いだせるようになればいいな、と思っています。

絵本を描きたいから描く、というのは、僕はまったく興味がないんです。何か目的があって、自分のテーマや役割があって、その手段として絵本を選ぶことがある、という感じです。でも、本をつくるのは楽しいので、ひとつの引き出しとしてこれからも続けていきたいと思っています。

 

― 祐彩さんと話していると、「自分」ではなく「世界」や「だれか」を自然と主語にしてものごとを捉えているのだなと感じます。

そう思えるようになったのは、子どもが生まれてからですね。子どもたちが大人になったときに今よりいい世界になってほしい、と思ったときに、「自分だけがよければいい」という考えではダメなので。ミュージシャンを目指していた頃は、俺が俺が、でした。今と真逆ですね。

 

― 傍から見ると、すでに大事な核心にたどりついていて、夢も叶っているように見えます。

はい。夢は叶っているんですよね、ずっと。仕事もプライベートも、夢というか望みは、毎日実現しているという感覚があります。それをもっともっと増やしていきたい、という感じですね。

今よりももっと作品づくりをして、もっと本を出して、イラストを描いて、色々な親子と関わって、という日々が送れたら、もっと夢の解像度が高くなって、より濃く、自分が目指す世界を体感できるのではないかと思っています。

 

小学校でのライブ絵本上演の様子 / チャリティーイベントで贈ったクリスマスプレゼント

 

― 最後に一言、メッセージをお願いします。

この絵本出版.comは、絵本を出版したいと思っている人たちが見るサイトですよね。僕は、たくさんの人の夢が叶っていくと、もっと優しい世界になると思っているので、自己実現できる人が増えていけばいいな、と願っています。

そして、絵本作家になりたい人たちが実際に夢を叶えることができる社会をつくっているのが、僕が『コロネのおしりはどっち?』を出した出版社、みらいパブリッシングだと思っています。一時期、絵本作家になりたい人が夢を叶える機会が少なかったのではないでしょうか。僕も、絵本を出そうとしたときに、「絵本なんてニッチでむずかしいよ」「大御所しか出せないよ」と言われました。でも、最近「絵本作家になりました」「本を出しました」という声をよく聞くようになりました。その方たちがどこで絵本を出したのかを見てみると、みらいパブリッシングさんが多いんですよね。ここからまた、絵本の文化が育まれていったらいいなと思います。

 

― 祐彩さん自身が夢を叶えている姿も、多くの人の励みや参考になっていると思います。お話を聞かせてくださってありがとうございました。

 


 
〈 祐彩(ゆうせい)さん プロフィール 〉

デザイナー・絵本作家。東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。小学校音楽の教科書(2015-2020)の表紙をはじめ、ミュージシャンのMVやNHKおかあさんといっしょの歌イラスト、オリジナルブランドMiMiunjourをプロデュース。デザインミー・アカデミーを主宰し自分をデザインして人生をクリエイトしたい人たちを輩出。著書:第10回フジテレビKIDS be絵本大賞 大賞受賞『かいとう あっというま』(扶桑社)[韓国・中国出版有]、こどものせかい『きつねのルルル これあげる』(至光社)、GENE FORESTシリーズ絵本12作品(DNA FACTOR)、第8回スプリングインク絵本出版賞 最優秀賞『コロネのおしりはどっち?』(みらいパブリッシング)ウェブサイト / Instagram

 

〈 絵本について 〉

タイトル:コロネのおしりはどっち?
作者:塚本 ユージ(旧作家名)
価格:1499円(税込)
判型:B5判変形 32ぺージ 上製 オールカラー
発売日:2023年1月12日
出版社:みらいパブリッシング
ISBN:978-4-434-31414-8
購入:書店 / Amazon / Yahoo!ショップ