2022/12/09
ふだん、本屋さんやネット書店で見かける絵本。
手に取りたくなる表紙や目を引くタイトル、つい感情移入してしまうキャラクター、息をのむ展開…と、素晴らしい絵本ばかり並んでいますよね。
当たり前と思う人もいるかもしれませんが、これらの絵本はすべて、“編集”という過程を経て出版されています。
最初から完璧で、変更がひとつもなく出版に至ったという絵本はほとんどありません。
では、編集はどのようなもので、どんなやりとりやプロセスがあるのでしょうか。
今回、提携出版社からお借りした貴重な資料をもとに、編集によって大きな変化を遂げた作品を3つ紹介したいと思います。
「やどかりりょこうき」というタイトルで第4回絵本出版賞で大賞を受賞した、はせがわあかりさんの作品です。
受賞時点での表紙と中身はこんな感じでしたが、出版後はがらりとイメージが変わりました。
〈出版前〉
〈出版後〉
もともと、細かく描かれた絵柄と独特の世界観が目をひく、美しい1作でした
それが、どうしてここまで大きく変わることになったのでしょうか?
キーワードは、“登場人への感情移入”だったそうです。
読者がより主人公のやどりんと友達のいそちゃんに感情移入できるように、構図を考え直すことになりました。
〈絵本を実際に描きはじめる前のラフ〉
また、最初、本文はやどりんの一人称で書かれていたのですが、第三者の語り手に変更することで状況の描写をよりわかりやすくし、やどりんたちと一緒に旅行をしているような気持ちにさせる工夫をしたそうです。
さらに、作者のはせがわさんによると、もともとやどりんの移動手段として描いていた乗り物は“籠”だったのですが、それを編集者のアドバイスで“車”に変更したことで、子どもたちがより楽しくなる仕掛けやアイデアがたくさん生まれたのだそうです。
このような編集作業を経て、できあがったのが『やどかりツアー』です。
元の作品で伝えていた旅の楽しさやわくわく感をそのまま残しつつ、絵本を読む子どもたちがやどりんを友達のように思ったり、何度も読みたくなるような絵本になりました。
原作は、「すーちゃんのつまさき」というタイトルで、第3回絵本出版賞の絵本のストーリー部門で優秀賞を受賞したあんのくるみさんの作品です。
ストーリーのみで絵のない作品だったので、出版社の勧めでアーティストのはやしともみさんに絵を手掛けてもらうことになりました。
ミュージシャンのMVやTシャツなどのグッズ制作にも携わっているはやしさん。彼女が絵を描くことで、今の時代に埋もれない作品になると考えたそうです。
こちらが実際に出版された絵本です。
はずかしがりやのすーちゃんが、言えなかったきもちに向き合う物語。
発売後すぐに反響が広がり、韓国でも出版されるなど話題を呼びました。
実は『つまさきもじもじ』というタイトルは編集者のアイデアだったそうです。
みんながこのタイトルを気に入ったことから、じゃあ、つまさきに書いたもじもじが増えていくのはどう? と、物語がどんどんふくらんでいきました。
もじもじが増えていく様子は、はやしさんによってこのように具体的に描かれ、イメージが固まっていきました。
〈当時のラフ〉
〈出版後〉
原作と絵、際立った才能の作家さんがふたりいて、さらに編集者がいて。
まさにチームでつくる絵本の醍醐味を感じることができる制作現場だったそうです。
「おはなしおばけ」というタイトルで第6回絵本出版賞の絵本のストーリー部門で最優秀賞を受賞したムカゴンズさんの作品です。
絵本が大好きなおばけの兄弟プーとポーが、おはなしの続きを聞くために女の子の夢のなかにとびこんだり、時計の針をすすめたり。
ストーリー部門の最優秀賞だけあって、物語には最初から魅力とパワーが備わっていました。
ただ、ムカゴンズさんがこの物語の絵を自分で描くことを決意してからが、挑戦と試行錯誤のはじまりでした。
画材選び、絵の構図、ページ割りなど何度も編集者と打ち合わせを重ね、何度も何度も描きなおしました。
〈キャラクターを決めるためのラフ〉
〈画材を決めるための試作〉
最終的にどうなったかというと、意外にも、切り絵で描くことになったのです!
ムカゴンズさん自身が好きな絵本『モチモチの木』の雰囲気をヒントにしたのだそうです。
これが実際に出版された絵本です。
切り絵の独特の雰囲気が、絵本好きのおばけというキャラクターや夜が舞台の物語とあいまって、唯一無二の存在感を出していますね。
この絵本を読む人は、まさか絵本が完成するまでにこれほどたくさんのおばけたちが試作のために生まれていたとは思わないことでしょう…!
以上、出版までに劇的な変化を遂げた3冊を紹介しました。
この3冊が特別なわけではなく、すべての絵本には制作過程で何かしらのドラマがあります。
それを紐解いてみることで、編集とはどういうものかがよくわかります。
最後に、上記3冊の編集を手掛けた書籍編集者の川口光代さんが、絵本の編集をする際に大切にしているポイントを教えてくれました。
〈絵本の編集者が大切にしていること〉
編集は、作家を支え、作品を高めるためにあるものです。
作家になるとき、少しでも内容を知っていると安心できると思うので、この記事を将来に役立ててもらえたらうれしいです!
この記事で紹介した絵本の情報はこちらです。
ビフォーアフターを知った上で読むと、絵本を何倍も楽しむことができますよ!
『やどかりツアー』
著者:はせがわあかり
価格:1430円(税込)
判型:B5判 上製 オールカラー 40ページ
出版日:2020年9月10日
ISBN:978-4-434-27945-4
くらげホテル、まっくらホテル、まんげつホテル!?
ヤドカリの やどりんは ホテルに 泊まるのが だいすき!
『つまさきもじもじ』
著者:作 あんのくるみ/絵 はやしともみ
価格:1540円(税込)
判型:B5判 上製 40ページ オールカラー
発売日:2020年4月10日
ISBN:978-4-434-27339-1
言いたいことが言えないことって、あるよね。
一歩踏み出す勇気がもらえる絵本!
『プーとポーのおはなしきかせて』
著者:ムカゴンズ
価格:1499円(税込)
判型:B5判 32ページ 上製 オールカラー
発売日:2022年8月10日
ISBN:978-4-434-30682-2
がんばりすぎて空回り
おばけ兄弟がほんとうに聞きたかったのは?