「自分のために書いた物語」から「人に見せたい物語」へ。絵本『鷲鳥と女の子』の作者、上田まさみさんに話を聞きました

インタビュー記事

2021/05/21

 

 

『鷲鳥と女の子』で、第5回絵本出版賞奨励賞を受賞し、絵本作家としてデビューした上田まさみさん。
心にすっと入り込み、物語の奥深くまで導いてくれる彼女の言葉。
物語ができるまでのお話から、絵を担当されたなんぶさんとの出会いまで、色々聞いてみました。

 

 

話を聞いた人:上田まさみさん

1992年、長崎市生まれ。活水女子大学看護学部を卒業後、仕事の傍ら絵本制作を行う。第5回絵本出版賞での受賞がきっかけとなり絵本『鷲鳥と女の子』の出版へと繋がる。

 

 

『鷲鳥と女の子』表紙。風が本当に吹いているような迫力です。

 

 

 


自分に希望を見出したい

 

― 絵本出版賞に応募しようと思ったきっかけを教えてください。

どこのコンテストに出そうか悩んでいたとき、絵本出版賞のウェブサイトに掲載されていた葉祥明さんの応援メッセージを見て、ここに出そうと決めました。小学生の頃、『サニーのおねがい 地雷ではなく花をください』が大好きだったので。

 

― 『鷲鳥と女の子』は、自分に自信のない女の子が鷲鳥との旅を通して大切なことに気づくという物語ですが、このストーリーはいつ頃から書きはじめたのですか?

ちょうど3年前ですね。その頃、自信をなくしたり悩んでしまうことが多くて。この暗闇から抜けだしたい、自分に希望を見出したいという思いから出てきた物語になっています。初めは誰かに伝えたいというよりも、自分に向けて書いた物語でした。自分にも何か自信になるものが欲しいというところからで。でも、その後、賞をいただいたり、作品を人に見せた時に嬉しい感想をもらえるようになって、自分の中に留めるだけじゃなくて人にも見てもらいたいという気持ちが芽生えてきました。

 

 

― 作品を読んだときに、「君のその気の小ささは致命的だね」「君がここで生まれたあの日から この風もメロディも君のためにある」「今となっては夢か幻かなんて小さな問題よ」など、読む人を世界観に引き込むような印象的な言葉がたくさんある絵本だと感じたので、自分に向けて書いたというのには驚きました。文章や物語を書くのは昔から好きだったんですか?

そうですね。小学生の頃、下敷きに自分の好きな歌詞を書くのが流行っていて、書いたものを読み返すと感動することが多かったんです。それから、自分でも書きはじめるようになりました。自分自身、思っていることを言葉で伝えるのが下手だなと感じていて。でも、文字に起こすと何度も修正できるし、色々な書き方ができる。自分が本当に伝えたいことが書けたときに、楽しさや満足感を感じるんです。

 

 

 

ページをめくりたくなるような作品をつくる

 

― 1番最初の構想と完成した作品とで変わったことはありますか?

元々は、鳥と女の子の掛け合いで文章ももっと長かったんです。時間をかけてつくった物語なので言いたいことがたくさんあって。でも、出版するにあたって編集の方から文章の長さと展開がないと指摘を受けて、訂正していきました。文章を削るのが特に大変で、友人に読んでもらってどこがいらないと思うか言ってもらいながら削りました。

 

― 周りの方の意見も相まって現在の作品が出来上がったんですね。

そうですね。自分だけだと、どうしてもこだわりが出てきてしまうんですけど、出版するということは読む人の意見も大事だと思って。ページをめくりたくなるような作品をつくることを特に意識しました。

 

 

― 女の子を導く存在として鷲鳥が登場しますが、鷲鳥にした理由はあるのでしょうか?

昔の話なのですが、私の父が夜中に家の玄関の扉を開けると、目の前にトンビがとまっていたらしいんです。それで、そのトンビが父に驚いてブワーっと大きな羽を広げて飛んで行ったみたいで。そうしたら次の日、家族にものすごく良いことが起こったんです。その話が自分の中で残っていて、幸せのお知らせの象徴という意味で今回登場させました。

 

 

 

 

「この子とだったらいい作品ができる」作画のなんぶさんとの出会い

 

― 絵を担当されたなんぶさんとはどのように出会ったんですか?

知り合いで絵の教室に通っている方がいて、教室につれて行ってくれたんです。そこで「絵本の挿絵を描いてくれる人を探しているんです」と相談したら、なんぶさんを紹介してくれたんです。ただ初めは、自分のイメージと描いてもらう絵が重なるか分からなかったので、試しに自分の書いた文章の中から好きなページを1枚選んで絵を描いてもらったら、その絵が素晴らしすぎて。この子とだったらいい作品ができると思って、なんぶさんにお願いすることにしました。

 

 

― 表紙にもなっている鷲鳥の登場シーンなど、元からのお知り合いなのかと思うくらい文章と絵がとてもリンクしていますよね。

実は表紙の絵が、なんぶさんが初めて描いてくださった絵なんです。一切修正の必要がないほどイメージにぴったりで、とても気に入っています。

 

― そうだったんですね。なんぶさんとの共同制作はどのように進めましたか?

表紙の絵のようにイメージで描いていただくこともあれば、私が大まかな絵を描いたり電話で説明をしてから描いてもらうこともありました。でも、空の色に関しては彼女が元々持っているものから出てきているんです。彼女が描いた過去の絵の中に、そういった色使いがあったので、こういう色をぜひ入れてくださいとお願いしました。

 

― ふたりの作風を生かし合う、素敵なコラボレーションですね。

あと、なんぶさんに言われて嬉しかったことがあって。なんぶさんは、私がいいと思っているものを「可愛いですね」とか、「それなら描けそうです」と言ってくれるんです。思いが通じ合っているように感じて、とっても嬉しかったです。

 

 

 

仕事があるからこそ創作活動に取り組める

 

― 上田さんは看護師として働きながら絵本の制作を続けてこられたそうですが、お仕事とのバランスはどのように取られていたのですか? 

あまりバランスを考えたことはないですね。物語を考えることが好きなので、仕事が終わってからとか、休みの日に楽しんでつくっていました。なので、苦だと思うことはなかったですね。

 

 

― 今後も、お仕事との両立で創作を続けていく予定ですか?

そうですね。当時と違って今は保健師として働いていて、65歳以上の方の家に訪問して、お話を聞いたり情報提供をしたりしているんです。大変なこともありますけど、この仕事があるからこそ精神的にも安定して絵本に取り組めていると思っています。実は今、2作目の絵本を制作中で。今度も女の子と動物のお話になっていて、鹿を出そうと思っています。次も出版できるように頑張ります!

 

― どんな作品になるのか、とっても楽しみです。今日はありがとうございました!

 

 

 

〈 おまけの質問 〉

 

Q.「ここだけの話」を教えてください

映画が好きで、小学生の頃からよく観にいっていたんです。父と兄と様々なジャンルの作品を見ました。一番好きなのが『ジョー・ブラックをよろしく』っていうブラッド・ピットが主演の作品で、恋愛要素も混じったすごくいいお話なんです。あとは『トロイ』とか。ひとつに絞れないくらい色々なものが好きですね。今までに観たたくさんの映画が、創作活動にも少し影響しているのかもしれません。

 

 

( 文:ゆのき うりこ )

 

 

 

《 本について 》

鷲鳥と女の子
作:上田まさみ 絵:なんぶ
何かを始めたいと思う自分の背中を押してくれる勇気の絵本